昭和から平成への御代替わりの頃。大嘗祭について関心が極めて高かった。当時、大嘗祭の研究に打ち込んでいた私から見ても、異常に感じたほど。しかし、大嘗祭とは「天皇霊」を継承する密室の秘儀、という折口信夫説を俗流化した見解が、十分に吟味されないまま横行していた。
これに対し、岡田荘司氏らが綿密な実証的批判を加えた。これによって、天皇霊秘儀説は既に過去の学説となっている。だが、そうすると次に、以下のような疑問が浮かび上がる。
「(上記の実証的な批判の結果)描かれた大嘗祭の像は、限りなく平板で、かぎりなく貧しい」「それでも大嘗祭は王位継承儀礼なのか」(赤坂憲雄氏)と。これに対する真正面からの回答は余り見当たらない。
手前味噌ながら、私のささやかな大嘗祭研究の成果(『天皇と国民をつなぐ大嘗祭』)は、数少ない実証的な回答の1つなのかも知れない。