皇室の「男系」の血筋を引く国民
国民の中には、皇室の「男系」の血筋を引く人々が、実は一杯いる。平清盛の子孫も、源頼朝の子孫も、足利尊氏の子孫も、皆さん、皇室の血筋に繋がる。改めて言う迄もなく、清盛は桓武天皇、頼朝は清和天皇、尊氏も同天皇の血筋を、それぞれ引くからだ。
例えば『古事記』を覗く。すると、201の氏族が登場する中、実に175の氏族は皇室の血筋を引くとされている。あるいは、平安時代の初期にまとめられた『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』に収録される1182の氏族中、皇室の血筋と公認された氏族(皇別)が335にも及ぶ。
更に、太田亮著『新編姓氏(せいし)家系辞書』を元に『歴史と旅』編集部が作成した「天皇家から出た氏族一覧」には、小さな活字で12ページにわたって、おびただしい氏族名がビッシリ掲げられている(同誌平成7年、臨時増刊号72)。
勿論、それらには皇室との血筋の繋がりを偽ったケースも少なくないだろう。だが、皇室の血統がかなり広範に、国民の間に行き渡っている事実は疑いない。その事から、わが国の在り方を「皇胤(こういん=天皇の血統)国家」と呼んだりする。
従って、ただ皇室の「男系」の血筋を受け継ぐからという理由で(結婚という厳粛な事実を介さないで)、国民が皇族の身分を新しく取得できるようになると、(“聖域”であるべき)皇室と国民の区別は殆(ほとん)どつけられなくなる。
この点については、かねて里見岸雄博士が以下のように指摘されていた。「(帝国憲法第1条に言う)『万世一系(ばんせいいっけい)』は…一定の名分(めいぶん=身分・立場などに応じて守るべき道義上の分限〔ぶんげん〕)によって限界づけられてゐなければならぬ。単に、生物学的事実による万世一系をいふならば、皇胤国家たる日本の如(ごと)きは、万世一系の出自たる者は殆ど無数である。『万世一系』の万世一系たる所以(ゆえん)は、故にこの単なる生物学的事実の一般的概念に存せず、特に皇族たる身分範囲内に於て体承(たいしょう)せられある『万世一系』の意味である事は言ふ迄もない。…即(すなわ)ち、皇室典範の定むる皇族範囲内に限定せられ、(明治)典範第1増補第6条の規定(「皇族ノ臣籍ニ入リタル者ハ皇族ニ復スルコトヲ得ズ」)を確守せる範囲内に於(おい)てのみこの大義名分は成立する」
「『祖宗(そそう)ノ皇統』とは、単に家系的血統を意味するだけでなく、『皇族範囲内にある』といふ名分上の意味を包含してゐるのである。然(しか)らざれば、我が国の如き皇胤国家に於ては、君臣(くんしん)の分(ぶん)を定めることが不可能に陥るであらう」(『天皇法の研究』)と。