天皇のご一代に一度限りの大嘗祭(だいじょうさい)。この大祭の為に、特別に造営されるのが大嘗宮(だいじょうきゅう)。宮内庁はその経費を少しでも削減する為に、最も中心となる建物「悠紀殿(ゆきでん)」「主基殿(すきでん)」及び重要な付属施設である「廻立殿(かいりゅうでん)」の屋根の葺(ふ)き方を、前例の「萱葺(かやぶき)」から変更して「板葺(いたぶき)」に改めると発表していた。
しかし、悠紀・主基両殿が萱葺なのは、古代以来の伝統。萱葺は簡素・素朴さの表徴であり、板葺では粗略に堕してしまいかねない。大嘗祭が戦国時代以来221年の中断を乗り越えて江戸時代に再興されてからも、平成まで“萱葺の伝統”はきちんと維持されて来た。それを僅かな経費節減の為に、やすやすと変更してよいのか。
私はこれまで、その問題性を繰り返し指摘して来た。ところが、この度、大嘗宮の造営費用が屋根の葺き方に関係なく(!)、大幅に低減される事実を知って驚いた。「皇位継承に伴い11月に行われる重要な祭祀(さいし)『大嘗祭』の舞台となる『大嘗宮』について、一般競争入札の結果、大手ゼネコンの清水建設が9億5700万円で落札したことが6日、宮内庁への取材で分かった。予定価格(15億4220万円)の約6割にあたり、同社は工法の工夫でコスト削減が可能になったと説明しているという。月内に皇居・東御苑で着工する」(産経新聞6月7日付)
何と、約6億円も安くなっている。それも百億円、千億円規模の工事ではない。予定価格の半額近くが削減されたのだ。宮内庁は一体、どんな根拠に基づいて予定価格を決めたのか。最新の「工法」なども入念に調査したのか。法外な予定価格を設定しておいて、少しばかりの金額を浮かせる為に、古代以来の伝統を私らの目の前で失わせるなど、本末転倒ではないか。
造営費用が確実に約6億円も節約できる以上、宮内庁は本来の「萱葺」に戻すのが当然だ。もし、これで「板葺」を押し通すなら、経費の節減ではなく、ただひたすら伝統の破壊を目指しているとしか考えられない。