緊急事態と立憲主義
国家は緊急事態を百パーセント避けることは出来ない一方、立憲主義はあくまでも守り抜かねばならない。
そこで、憲法それ自体の中に予め緊急事態に対処する場合の例外的な規定を盛り込む必要が生まれる。いわゆる緊急事態条項がそれだ。
しかし、同条項は政府への権力の集中と国民の権利の制約を「正当化」するだけに、一歩運用を誤ると、立憲主義が破壊される危険を伴う。帝国憲法にも、緊急事態条項があった。
例えば、その緊急勅令(8条)を巡り同憲法の伊藤博文名義の半官半民の注釈書『憲法義解』の中で、“特に”以下のような言及があった。
「もし政府にしてこの特権に託し、容易に議会の公議を回避するの方便となし、また以て容易に既定の法律を破壊するに至ることあらば、憲法の条文はまた空文に帰し、一(いつ)も臣民(しんみん)のために保障を為(な)すこと能(あた)はざらむとす。故に本条はまた議会を以てこの特権の監督者たらしめ、緊急命令を事後に検査してこれを承諾せしむべきことを定めたり」と。
今般のコロナ特措法の場合、「議会を以てこの特権の監督者たらしめ」“ない”ルールになっている。伊藤博文も呆れるのではないか。