ヨーロッパ君主制の趨勢
4月14日に、衆議院第1議員会館で予定されている「皇位の安定継承」に向けた緊急シンポジウムのパネリストのお1人、君塚直隆氏。
サントリー学芸賞を受けられた『立憲君主制の現在』から、シンポジウムのテーマに関連する一節を紹介する。
「伝統あるヨーロッパ諸国の王室も21世紀までの間に女性への王位継承権や、男女を問わずに第1子の継承が優先される『絶対的長子相続制』を導入してきた…これらの国々でも、中世にはキリスト教の教えに基づき女性への継承権が認められないことの方が多かった。聖書の『創世記』には『男は神の似姿として』創造され、女はその男から創造されたとある。このため、神の代理人としてこの世を支配することは女性にはできないとの考えが広まったのである。
しかし、これに基づいて『男系男子』の継承者にこだわった結果、中世以来のヨーロッパで最高の格付けを誇ったハプスブルク家がオーストリア王位継承戦争(1740~48年)に巻き込まれた一方、その好敵手ともいうべきフランスのブルボン家もスペイン王位継承戦争(1701~14年)を引き起こすこととなった。
しかもハプスブルク家にいたっては、最終的に『女系男子』をその後の継承者にせざるを得なくなったのである。さらに、18世紀までは『女帝』もたびたび即位していたロシアが、19世紀初頭からは男子継承に限定するようになったため、その100年後には『怪僧ラスプーチン』の登場につながり、それが1917年のロシア革命勃発の遠因のひとつになったことはよく知られている。
こうした歴史的経緯とともに、21世紀の現代世界に広く行きわたるようになった観念が『男女平等』という考え方であり、1979年のスウェーデンを筆頭に、オランダ(83年)、ノルウェー(90年)、ベルギー(91年)、デンマーク(2009年)、ルクセンブルク(11年)、そしてイギリス(13年)と、ヨーロッパの王室は次々と『絶対的長子相続制』を採用した。
あと30年ほど経過すれば、ベルギーのエリザベート(2001~)、オランダのカタリナ=アマリア(2003~)、ノルウェーのイングリッド・アレクサンドラ(2004~)、スペインのレオノール(2005~)といった具合に、愛子内親王(2001~)と同世代の王女たちが次々と各国で『女王』に即(つ)くことになる。
その前に、2017年7月に40歳の誕生日を迎えたスウェーデンのヴィクトリア皇太子(1977~)が、まずは同国でおよそ300年ぶりの女王となることだろう。
アジアの王室でも女性への継承権が認められつつある。いまだに男尊女卑の傾向が強いイスラームを信奉する国々では難しいが、タイでは1974年の憲法改正により王女へも王位継承権を与えると書き換えられたため、現在では女性への継承も可能となっている」ー