「伝統の森」100選
先日、NPO法人社叢(しゃそう)学会理事長で京都大学名誉教授・秩父神社宮司の薗田稔先生に、久しぶりにお目にかかる機会があった。
先生には大学院でご指導戴いて以来、様々なご縁を戴いている。
しかし、近年は拝眉の機を得ないでいた。
ご高齢にも拘らず矍鑠(かくしゃく)としたご様子。
いつもながらお優しく、穏やかで、しかも知的刺激に富んだ会話は、とても楽しかった。
その時、『東アジアの「伝統の森」100選―山・川・里・海をつなぐ森の文化』(サンライズ出版)という著書を下さった。
先生ご自身が監修された、京都大学の大学院での教え子、李春子(イ・チュンジャ)氏の編著。彼女は韓国からの留学生で、現在は神戸女子大学の非常勤講師を務めておられるようだ。
薗田先生はおっしゃった。
「京都大学で留学生も含め、多くの大学院生達に日本文化論を教えたが、“鎮守の森”に学問的な関心を持ってくれたのは、彼女一人だけだった。韓国での教育で、はじめは神道や神社に偏見もあったようだけど、日本に来て、実際に神社と触れてみて、魅力を感じてくれた」と。
その成果が同著。
ほとんど全ページがカラーという贅沢な本。
本の第1部では日本の「伝統の森」が70箇所、それに韓国20箇所、台湾10箇所の森が2ページの見開きで、人文学+植物学の観点から取り上げられている。
ちなみに、日本の「森」で最初に取り上げられているのは秋田海岸林・栗田神社。最後が沖縄・西表島の仲間川マングローブ林。
ふんだんにカラーの写真を掲げ、また森の現況について専門的な記述も見られる。
各地の植物専門家や樹医らと一緒に現地調査を重ねて完成させた労作だ。
第2部は李氏らの論文を収める。
体系性や個別の論述の掘り下げについて、物足りなさを感じる向きもあるかも知れない。
しかし、この種の書物はこれまで無かったのではないか。
新しい探究の“端緒”としては、十分に意義のある著書だろう。