「愛」という語の初出
天皇・皇后両陛下のご長女、敬宮(としのみや)愛子内親王殿下。
直系の皇族(内廷皇族)としてお生まれなので、ご実名(愛子)とご称号(敬宮)を天皇(今の上皇陛下)から授けられた。
選ばれた3人の学者が協議して、複数の候補を選び、その過程で天皇・皇后両陛下(当時は皇太子・同妃)のご意向を汲みつつ、最終的に3つに絞られた中から、慎重にお決めになった。
出典は『孟子(もうし)』(離婁章句下、りろうしょうくのげ)。
原文は以下の通り。
「仁者愛人、有礼者敬人、愛人者恒愛之、敬人者恒敬之」小林勝人氏の訓(よ)み下し文と現代語訳を掲げる。
「仁者は人を愛し、礼ある者は人を敬す。
人を愛する者は、人恒(つね)に之(これ)を愛し、人を敬する者は人恒に之を敬す」
「いったい仁者はひろく人を愛するし、礼ある者はよく人を尊敬する。
人を愛する者は他人もまたつねにその人を愛するし、人を尊敬する者は他人もまたつねにその人を尊敬するものである」
敬宮殿下にお寄せになった、天皇・皇后両陛下と上皇・上皇后両陛下のお気持ちを拝察できるだろう。
ちなみに、傍系の宮家のお子様の場合は、ご称号は無く、ご実名もご両親が相談して付けられる。
秋篠宮家の眞子内親王殿下・佳子内親王殿下・悠仁親王殿下の場合も同様だ。
では、わが国において「愛」という語が初めて確認できる文献は何か?
他でもない、古事記だ。
イザナキ・イザナミ2神の物語に出てくる。
2神がそれぞれ相手を讚美する場面で、互いに「あなにやし、えおとこ(男)を」「あなにやし、えおとめ(乙女)を」と唱える。
「ああ、何と愛(いと)しい男・乙女でしょう」という意味だ。
原文では「え」に「愛」の字を当てている。
日本神話において、“愛”はイザナキ・イザナミ2神の物語を通して、自他の相違と独自性(対立)を踏まえながら、その対立を乗り越えて、相手を大切にしたいと思う、他者と生産的な関係を持つ為に欠かせない心の働きとして、描かれていた(拙著『はじめて読む「日本の神話」』など参照)。
愛をテーマにした最古の物語の中で、「愛」の字そのものが使われていた。