皇位の安定継承を巡る意見
東京新聞に掲載された皇位の安定継承を巡る識者の意見。
先日、紹介した八幡和郎氏を除き、他の方々の発言を一部紹介しておこう。
小田部雄次氏。
「保守派は、旧宮家の血筋の男系男子に皇籍を取得させるよう主張するが、絶家していない旧宮家と天皇家との男系の共通先祖は六百年前まで遡(さかのぼ)る上、戦後70年以上にわたり、一般民間人として生活してきた方々だ。
その皇室入りに国民の理解は到底得られないし、将来その方々に男子が生まれる保証もない。
…政府が本格的な議論を始める前に秋篠宮さまの立皇嗣の礼を行ってしまうのは、男系継承を既成事実化して、議論の前提を狭めることになりかねず、公平さを欠く。
しかも立皇嗣の礼は過去に前例のない初めての儀式だ」
百地章氏。
「女性皇族に継承資格を認め、結婚後も皇室に残ってもらう案には反対だ。
なぜなら皇室と無縁な一般男性が結婚を機に皇族となるうえ、一般男性の血筋である女系天皇の誕生につながりかねないからだ。
それは初代神武天皇から男系で続いた皇統の断絶を意味する」
河西秀哉氏。
「男性しか天皇になれなくなったのは明治になってからだ。
明治政府は欧米列強に対抗するため、絶大な権限を持つ戸主を中心とする家制度を作り上げ、その象徴として皇室典範で天皇を男性に限定した。
だが戦後、日本国憲法で象徴天皇制の根拠は、国民の総意となった。
国民の半数は女性なのに、男性しかなれない天皇は『半分の象徴』ではないか。
現代社会は男女平等に近づいており、天皇が女性であってもいいという国民の声は自然の流れだ」
所功氏。
「本来は旧宮家の子孫を皇族にすることは望ましくないが、窮余の策として考慮しなければならないほど事態は逼迫(ひっぱく)している。
…皇室問題は当事者の考えも重要だ。
明治以降の皇室典範では、皇位継承者を男系男子のみに限定し、皇族女子は一般男子と結婚すれば、皇籍を離脱することになっている。
このルールを急に変えると、当事者の女性皇族は大変お困りになる。
現行法のもとで生まれ育った当事者には、原則として現在のルールを続けるしかないのではないか」
君塚直隆氏。
「ヨーロッパ諸国の王室の大半は、男女平等の観点から女性の王位継承権を認め、20世紀後半から性別に関係なく第1子を優先する『絶対的長子相続制』を導入してきた。
…現行の典範は、明治時代に作られたものとほとんど変わらず、その明治の典範も歴史は浅い。
日本では確かに皇位は男系男子を中心に継承されてきたが、あくまでも慣例であって…男系男子にこだわるべき明確な歴史的根拠はない。
…いまの皇族の減少と高齢化という『負のスパイラル』は、すべて典範に元凶がある。
旧弊を改正しない限り、悠仁親王の配偶者となる女性も男子出産のプレッシャーを受けることになり、大きな人権問題だ」
念の為に私見の一部も。
「(皇位継承資格を)男系男子に初めて限定したのは明治の皇室典範だ。
明治には前近代と同様、正妻でない『側室』が存在し、側室が生んだ非嫡出子にも皇位継承資格が認められていた。
明治天皇や大正天皇もそうだが、歴代天皇の半数近くは非嫡出子だ。
もし歴代天皇に正妻しかいなかった場合はどうか。
女性天皇と史実性に疑問がある天皇や未婚の天皇などを除き、96代の正妻を調べると、34人(35.4%)は男子に恵まれていない。
一夫一妻制なら3代に1人は跡継ぎの男子がいなかったことになる。
側室制度は昭和天皇のときに廃止され、現在の皇室典範では非嫡出子という制度的な『安全弁』も無くなった。
いまは歴史上、最も制約の厳しい皇位継承制度であり、行き詰まるのは必然だった。
皇室典範を改正しない限り、将来は悠仁親王に嫁ぐ女性にとっても男子出産のプレッシャーは想像を絶したものとなり、結婚そのものの障害にもなりかねない。
一部では、男系男子の縛りを残し、旧宮家系の血筋の独身男性に皇籍を取得してもらう案が唱えられている。
だが…そもそも旧宮家の男系継承も側室に支えられた歴史を考えると、皇位の安定継承に資することにはならない」
さて、目先のゴマカシや問題の先送りではない、歴史と現代を考慮し、遠い将来も見据えた、真に「皇位の安定継承」に繋がる建設的な立論は、どれか。