「葬儀崩壊」というデマ
新型コロナによる死者が続出して火葬場の処理能力を越える等の「葬儀崩壊」が起こる。
そんな懸念がメディアにも取り上げられているとか。
これに対して、老舗(しにせ)葬儀店を経営する佐藤信顕氏(有限会社佐藤葬祭・代表取締役)がインタビューに答えておられる(『宗教問題』30号)。
「現場の立場からはっきり言っておきたいと思います。
今の日本で『葬儀崩壊』は起こっていません。
少なくとも僕の見聞きする範囲内で、そのような話はまったく耳に入ってきていません。
…今年に入ってから4月末くらいまでの時点で、新型コロナによって日本で亡くなった人は約四百人(7月3日時点で976人―引用者)。
一方、厚生労働省の人口動態統計を確認しますと―まだ今年の数値は出ていないので昨年の数字にはなりますが―日本では1~4月の間に約49万人の方が亡くなっているんですよ。
ちなみに昨年1年間の、日本での全死亡者は約137万人です。
いわゆる高齢・多死社会と呼ばれるまでになった日本では、毎年それぐらいの数、お亡くなりになる方が出ているわけです。
葬儀業界も、その数字に対応できる能力を備え、準備してきた流れがあるんですね。
ですから新型コロナが感染拡大しているとはいっても、少なくとも現段階ほどのレベルでは、葬儀業界が崩壊してしまうようなインパクトはないですね」
「日本の火葬率は2014年に厚労省が発表した統計によると、99.9%です。
現在、日本で亡くなる130万人超の人々はほぼ全員火葬されていて、またそれだけの火葬能力を日本の社会は備えているわけなんです。
特に現在、日本の人口の中でも特に多い団塊の世代が高齢者となっている、つまり死期が近づいている状況に関しては、葬儀業界も行政も備えをしてきました。
火葬場は大規模集約化が進み、見かけ上の数は減っていますが、一施設あたりに設置された炉の数は格段に増加しています。
またその炉の能力も近代化が進んでおり、多死社会への備えは確実に進んでいる。
日本は世界のなかでも相当な火葬先進国ですよ。
たまにメディアに『この多死社会のなかで火葬場の混雑が進み、順番待ちが発生している』などといった記事が載ったりすることがありますが、それは遺族や関係者が集まりやすかったり、葬儀後の会食につなげやすかったりする時間帯に申し込みが集中しているという話であって、火葬場が絶対的に足りないという話ではありません。
それは新型コロナウイルスの感染拡大が続く現状下でも、特に変わりありません」
「テレビのワイドショーは、かなりひどいと思います。
名指ししてしまいますけど、特にテレビ朝日の『モーニングショー』。
葬儀に関する相当なデマを流しています。
4月7日放送の同番組ではある葬儀業者が言っていた話として、いま肺炎で亡くなった遺体に関しては葬儀社側の判断で、新型コロナウイルス感染者の遺体と同等の扱いで処理しているんだという内容を放送していました。
通常、日本で亡くなった方の遺体は法律上の規定により、24時間以上安置した上でないと火葬できません。
ただし国が定める『指定感染症』で亡くなった方の遺体に関しては、24時間以内に火葬ができるんですね。
現在、新型コロナは指定感染症となっています。
ですからこの病気で亡くなった方の遺体は、24時間以内に火葬される場合もあり得る。
けれども、医療機関側で『この方は新型コロナで亡くなりました』と判断されてもいない遺体を、葬儀社側の判断で勝手に24時間以内に火葬してしまえるなどという話は、僕は聞いたことがありませんし、そんなことを許す法律もないです」
「東京都内のある医師がツイッター…で『ある火葬場から聞いたが、運び込まれる遺体の数が2割以上増えている』などと書き込んでいるのも見ました。
しかし…葬儀は微減傾向ですらあり、そんな話はどの火葬場からも聞いていません。
そういう愉快犯というのか、人の不安を煽って喜んでいるような人は東日本大震災の時にもいましたが、今回もまた、性懲(しょうこ)りもなく出てくるんだなあという感じですね」
「葬儀の参列者が減って、内容も簡素化しているという流れは、ここ十数年の間で一貫して起こっていることです。
いま少なくとも一般の方の葬儀は、近しい親族や生前親しかった方のみで行う家族葬がほとんど。
仕事先や町内会の方などまで百人、二百人が集まるような規模のものは、あまりありません。新型コロナウイルスの存在に関係なく、この大きな流れは基本的に変わらないでしょう」
「通夜を省く場合が多いとはいっても、例えば亡くなった方の奥さんと僧侶だけで葬儀の前夜、お経(きょう)をあげているなどのことはあります。
僧侶の皆さんもプロですからね。
『新型コロナが怖いから斎場に行きたくない』なんて人は、僕は見たことがありませんよ。
そして僕たち葬儀社もプロですから。
こういう社会情勢下ではありますけれども、できる限りのことを精一杯行わせていただきたいと思っています」―
「葬儀崩壊」が起こりかねない、なんて見え透いたデマを、どうして流すのか。
他にも、人々の恐怖心のみを煽るような、同様の悪質なデマは、いくらでもあるだろう。
要注意。