「旧宮家」案の実情
皇位の安定継承を巡り、旧宮家系国民男性に結婚という人生の一大事を介さないで、そのまま皇籍の取得を可能にしてはどうか、との提案が以前から一部でなされている。
しかし、「側室」が不在で「非嫡出」の継承を認めない条件下で、明治以来の「男系男子の“縛り”を維持していたら、“もし”そのような手立てが可能だったとしても、将来への安定性は確保し難い。
過去の宮家(4世襲親王家)の実例を参考にすると、正妻たる方の「54%強」は男子を生んでおられなかった。なので、かなり多数の宮家を(世代を超えて)“継続的に”維持しない限り、実際に資するものにはならない。しかし、側室が不在では至難だ。
これまで「4乃至(ないし)5の宮家を常に確保し続けることによって、側室なくとも男系継承は確率論的に可能」(竹田恒泰氏、『伝統と革新』創刊号、平成22年)などとされて来た。
しかし、それは、過去の天皇の正妻たる方の「26.5%」だけが男子を生んでおられなかったという、かなり“甘い”前提を設けての話だった。しかし、私自身が検証した結果では、天皇の正妻たる方の場合も、「35.4%」は男子を生んでおられなかった、と見なければならない。過去の天皇や世襲親王家の実例に照らせば、最低限、必要とされる宮家の数は、「4乃至5」ではとても足りない。
ところが、皇籍取得の対象となり得るのは、旧宮家のうち久邇(くに)・賀陽(かや)・東久邇・竹田の4家のみ(多くの旧宮家は既に断絶した)。
しかも、当事者からは“後ろ向き”の声しか伝わって来ない。「拒否反応がある」(久邇邦昭氏)、「立場が違いすぎ、恐れ多いことです」(賀陽正憲氏)、「そんなお話になってもお断りさせていただくと思います」(東久邇征彦氏)、「仮に打診があっても受けるつもりはございません」(竹田恒泰氏)など。
対象となる人々は皆さん国民なので、ご本人の意思に反して皇籍取得を「強制」することは、勿論(もちろん)、出来ない。万が一、僅かでも“強制の影”が感じられる動きがあれば、国民多数の皇室への素直な敬愛の気持ちは、大きく損なわれる結果になるだろう。
従って、旧宮家系男性に皇籍取得を可能にする場合、当事者の意向確認は“絶対に”不可欠な前提条件だ。
にも拘らず、政府は国会の場で、今後も当事者の意向確認は行わない、という姿勢を明らかにしている(令和2年2月10日、衆院予算委員会での菅義偉内閣官房長官の答弁)。これが何を意味するか。少なくとも、政府答弁が虚偽でない限り、余りにも明らかではあるまいか。