文藝春秋社が刊行していたオピニオン雑誌『諸君!』。今から20年程前の平成11年12月号で、「三島事件」特集を組んだ。そのメイン企画は「著名人100人アンケート」だった。
その中から何人かの回答の一部を紹介する。まず、事件当時、防衛庁長官だった中曽根康弘元首相。
「三島(由紀夫)君がいわんとしたことは理解できるが、行動は是認できない。もっと長く生きて、民主的に彼の精神が国民に理解されるよう働いてもらいたかった」
東京大学名誉教授・小堀桂一郎氏。
「30年近い歳月が経ちましたが…三島氏のあの行動の精神的影響力の深さと持続には正直感嘆します。但し行動自体に対する私自身の評価は変りません。一片の愚行であつたと思つてゐます。三島氏はその憂国の情念を、あくまでも言葉を以て国民に語り続けるべきでした」
評論家・松本健一氏。
「『文化概念としての天皇』という三島さんの考え方については、当時も今も共感をおぼえます。しかし、それを『軍隊』(もしくはクーデター)に結びつけるなら、それはただちに政治概念に変質するのではないか、と当時も今も感じています」
元拓殖大学総長・小田村四郎氏。
「私はかけがえのない人を失ってしまったという無念の思いで一杯であった。同時に憂国の熱情と改憲の悲願を死を以て国民に訴えた三島さんの志を何としても受け継いでいかなければならないと決意した」
埼玉大学名誉教授・長谷川三千子氏。
「自分自身の生き方を考へようとするとき、いつも知らず知らずの内に、三島さんのあの『行動』を基準点として、そこからの距離をはかりながら考へるのが習ひ性となつてゐます」
文芸評論家・富岡幸一郎氏。
「事件の直後に、保田與重郎(やすだ・よじゅうろう)が、これは近年の大事件というより、もう少し長い、日本の歴史の中での大事件であると書いていたが、(当時は無論わからなかったが)今ではそう言い得るのではないかと思う」
―他にも紹介したい回答がある。それらは改めて。