大嘗宮が造営された「朝堂院」は朝廷の中心的施設。
その朝堂院の正庁は「大極殿(だいごくでん)」だった。
高い基壇を築き、朱塗りの柱に、瓦葺(かわらぶき)きの屋根。豪華・壮大で堅牢な建物だ。まさに朝廷の威信を示すに相応しい。即位礼は、この大極殿に「高御座(たかみくら)」を据えて行うのが、公式の形だった。
ところが、大嘗宮はどうか。基壇を築くどころか、礎石すら置かない掘っ立て柱。木材は皮も削らない黒木。屋根は最も原始的な萱(かや)葺き。まさに対照的。そんな建物を、大極殿の少し前に、わざわざ造営して大嘗祭を行った。
世俗的な威厳を表示する即位礼と、最高の清浄さが求められる大嘗祭。2つの行事の、対極的なまでの性格の違いを、正確に反映した事実だろう。皇位の継承に伴い、この両方の儀式が共に欠かせないと考えられてきた経緯も、「天皇」の本質を探る大切な手掛かりになるはずだ。