10月22日の「即位礼正殿の儀」にオランダのウィレム・アレクサンダー国王が参列して下さる。かつて、同国に根深い反日感情があった事を思うと、感慨深い。
先の大戦中、旧オランダ領東インド(現インドネシア)の旧日本軍の収容所でオランダ人の捕虜や民間人が多数、抑留された。その為、サンフランシスコ講和条約による国際法上の解決とは別に、オランダ国内には日本への反感が長く残った。
昭和46年に昭和天皇がオランダを訪問された際には、車列にビンが投げ込まれる事件が起こった。平成元年の昭和天皇の「大喪の礼」の時も、当時のベアトリクス女王は国内の感情に配慮して、来日を見合わせた。大喪の礼に参列したのは、首相ですらなく、より格下のファン・デン・ブルック外相だった。この時、欧州の王室で、王族が参列しなかったのはオランダだけだった。上皇陛下の即位礼には女王の名代で、現国王のウィレム・アレクサンダー王太子が参列したものの、やはり女王自身の参列は控えられた。
その後、大きな転機となったのは、平成12年の上皇・上皇后両陛下のオランダご訪問だった。抗議の声も挙がる中でのご訪問だったにも拘らず、両陛下のご誠実なお姿がオランダの世論を変えた。晩餐会で両陛下と言葉を交わした引き揚げ者団体の会長ルディ・ブックホルト王室顧問は、以下のように述べている。
「思いやりの言葉は決して見せかけではない。本当に誠実だった。戦争を忘れることはありえないが、犠牲者の気持ちは癒される」と。
その転換の延長線上に、この度、遂にオランダ国王ご自身の参列を仰ぐ事になった。これは嬉しい。
オランダご訪問の時の上皇后陛下の御歌(みうた)。 慰霊碑は 白夜(びゃくや)に立てり 君が花 抗議者の花 ともに置かれて
昼間の行事で両陛下はアムステルダム・ダム広場の戦没者記念碑に花輪を供え、黙祷を捧げられた。その後、両陛下のオランダご訪問に抗議していた戦争被害者の一群が、白い菊を持って行進し、慰霊碑の柵の周りにその花を立て掛けて帰った。夜、ご宿舎の窓から見える慰霊碑のもとには、陛下がお供えになった花輪と共に、(その下段に)柵の内側に運び込まれた抗議者達の白菊が並べられている。
何気なく見逃してしまいそうな光景だが、上皇后陛下はそれをわざわざ和歌に詠まれた。あたかも、抗議者達を優しく抱き締めておられるかのように…。