日本史学における近年の学説状況、研究状況を、テーマごとに平易かつコンパクトに整理した著書が刊行された。岩城卓二氏・上島享氏ほか編著『論点・日本史学』(令和4年8月、ミネルヴァ書房)だ。
「現在の研究の到達点を提示した」(同書「はじめに」)というこの本に、「古代の女帝-仮の“中継ぎ”だったのか」(義江明子氏執筆)という一文が収められている。その中からいくつかの文章を紹介しておく。
「(古代の女性天皇についての)『中継ぎ』説の前提は、80年代以降の王権論・親族構造論等の進展により、ゆらぎはじめる」
「80年代には新たな親族理論により、古代社会の親族構造は父系でも母系でもない双系的なものであることが明らかになった。世襲王位の継承には、父方母方双方の血統が重視された」
「男女のリーダーの存在は、世界各地の双系的社会にみられる特色の一つである。古代の倭/日本は、古くから父系原理で構成された中国とは、まったく異なる構造の社会だった」
このような日本史学の研究状況の展開は、将来に向けた皇位の安定継承をめぐる制度的な検討においても、極めて有益な示唆を与えてくれるはずだ。
…というアカデミズムと政治課題との接合を図る視点を、他ならぬ皇位継承問題というテーマにいち早く導入したのは、どうやら私だったかも知れない(神社本庁教学研究所『皇室法に関する研究資料』〔平成18年8月〕における私見への論評など参照)。
追記
プレジデントオンラインに連載している「高森明勅の皇室ウォッチ」は8月26日に公開予定。
今月は、安倍晋三元首相の「国葬」と「大喪(たいそう)の礼」の“違い”について、取り上げた。