政府は「旧宮家案」を既に断念?
安倍政権は7年8カ月も続いた。その間、「安倍一強」と呼ばれた時期が長かった。国会では「男系の重み“など”を踏まえ“ながら”」という(霞ヶ関文学〔官僚作文術〕の「最高傑作」的な)答弁を何度も披露して来た。
にも拘(かかわ)らず、「男系維持」論者が唱えて来た、旧宮家系国民男性が(ご結婚という人生の一大事を介さないで)“そのまま”新たに皇族の身分を取得できる制度変更(旧宮家案)には、安倍氏ご本人が以前はそれを強く主張されていたはずなのに、全く手を着けなかった。
どころか、その可能性を否定する国会答弁を繰り返した(平成31年3月20日、参院財政金融委員会での安倍首相〔当時〕答弁、令和2年2月10日、衆院予算委員会での菅内閣官房長官〔同〕答弁など)。これは何故か。
と、「男系維持」論者が不審がったり、苛(いら)立ったりする素振りが見えない。私などには、それが不思議だ。その中には、安倍前首相のブレーンを自称していた人物もいたのだが。安倍前首相は旧宮家案を無視したばかりか、「まだ40年ある」などと、ひたすら“先延ばし”だけを図っている。しかし、同案に「絶対反対」という論者は、私も含めて、殆(ほとん)どいないのではないか。
私などは、ただ、難題が山積している事実を指摘して来たに過ぎない。
①旧宮家系男性で、国民としての自由や権利へのほぼ全面的な制限、更に、仕事は当然それまで通り続けられないだろうし、家族や友人などと会うことすら思うに任せなくなる等々の大きな制約を、全て受け入れて、皇籍取得を決断できる未婚の成年男性は(具体的に対象となる賀陽〔かや〕・久邇〔くに〕・東久邇・竹田家などに)果たしているのか。
近頃、成年男性に候補者を見つけらない為か、一部で唱えられる未成年の養子案は、本人の資質や責任ある意思などを判断できず、縁組み破棄の可能性が高い(民間同士の一般的な養子縁組みでさえ離縁率が3割以上)ことも織り込まねばならないので、常識的には除外される。従来、子息の婿養子の可能性なども含めて、否定の意思を示されているのは、賀陽正憲氏、久邇邦昭氏、東久邇征彦氏など。
②もし意思がある人物がいても、皇族の身分を得るに相応しい資質や経歴などを備えているか。これまで旧宮家には、残念ながら必ずしも立派とは言い難い、様々な出来事もあった(例えば、近年の本人やその人間関係を巡る不祥事で、比較的よく知られている事例では、竹田恒昭氏が大麻取締法違反の現行犯で逮捕・起訴されたり、竹田恒泰氏が代表を務める「竹田研究会」のナンバー2の幹事長だった人物が、4700万円もの公金を騙し取ったとして
詐欺容疑、更に4億円もの所得隠しによる脱税容疑でも、逮捕・起訴されたりしている)。
③民間で生まれ(親が既に国民)、民間で育ち、民間で生活して来た(血縁も男系〔!〕では遥かに遠い)人物が、皇族とのご結婚を介さない形で皇室に入って、国民が素直な敬愛の気持ちを抱けるか。
④元々国民として生まれた人物の、更にその子や孫の世代に当たる人物が、前近代(又は戦前)とは諸条件が異なる中(特に貴族階級が存在しない)、そのまま(貴族ですらない一般国民が)皇族になることで、皇室の「聖域」性や尊厳を損ない、皇室と国民の“区別”を曖昧にしないか(皇室ご自身のこの点へのお考えもいかがか?)。
⑤それだけ無理を重ねても、側室が不在で、非嫡出の継承可能性が排除された条件下で、明治以来の「男系男子」の“縛り”を維持する限り、皇位継承は早晩、行き詰まる他ない等。
―政府は恐らく以上の諸点その他について、とっくに「慎重かつ丁寧」な検討を済ませているはずだ。その結果、普通に考えたら誰にでも分かり切った結論に、“既に”達しているのだろう。「正解」が分かっていながら、一部の“男系維持”勢力の頑(かたく)なな反発を嫌がって、徒(いたずら)に問題解決の先送りを続けて来たのではないか。
まことに卑怯で情けない話ながら、そう考えなければ、これまでの経緯はとても説明がつかない。