わが国最古の仏教説話集『日本霊異記』(にほんりょういき、成立は787年頃。822年頃に増補)。その中に、古代日本の女性の社会的地位を窺わせる記事がある。例えば、自分の夫に相応(ふさわ)しい男性を、両親やその他の仲介者に頼らず、独力で探す女性(上巻、2話)。
又、自分の夫も抵抗できなかった、理不尽な国守(地方行政を司〔つかさど〕る長官)を怖(お)じけづかせた女性(中巻、27話)。
更に、地域の共同体が管理・運営する寺院の経済部門を一手に担っていた女性(同32話)など。或いは、地方豪族の妻が、自ら豊かな財産を蓄え、高利貸しをして、暴利を貪る様子も描かれている(下巻、26話)。勿論(もちろん)、これらをそのまま史実と見ることはできない。
しかし、まるで事実とかけ離れていたら、説話としての魅力を持ち得なかったはずだ。
それに、人間の想像力には自ずと限界がある。よって、これらを手掛かりに、古代日本における女性の社会的地位の“高さ”を、ある程度、推測できるだろう。