失礼ながら、近年の皇室の出生状況はどうなっているのか?
以前、「大正天皇以降の皇室の出生率をトータルで見ると決して低くない」という意見を見かけた。だが、「大正天皇以降」という長期スパンでの数字では、社会的に少子化が進んでいる現代において、皇位継承の将来を展望する為には、何の参考にもならない。近い時代の実情こそ直視する必要がある。
上皇陛下以降の世代で、ご結婚によって皇室にお入りになった女性方(皇后・上皇后・親王妃)の数を分母とし、実際にお生まれになったお子様方(親王・内親王・女王)の数を分子にして値を出すと、ちょうど2となる。一般の合計特殊出生率(令和3年で1.30)よりは高い。
しかし一般の場合は、非婚率の高さが数字を押し下げている。なので、結婚平均年齢以上の未婚皇族方も分母に加えると、今の時点で1.333…という数字になる。
いずれにしても、決して安心できる数字ではあるまい。こうした状況がにわかに好転するとも考えにくいし、根拠の無い楽観に基づいて対策を立てるべきではない。むしろ(晩婚化の傾向も見据えて)一層、少子化が進む可能性も普通に織り込んでおくべきだろう。
と言うより、上皇陛下や天皇陛下の世代には皇室内に複数の「男系男子」がおられた(上皇陛下の世代には=お5方、天皇陛下の世代には=お2方)。
しかし僅かな期間に、そのような次世代を生み出す基盤そのものが、“極小化”してしまった。
しかも、苦肉の策として提案されているいわゆる旧宮家プランは、憲法が禁じる「門地による差別」に該当するので、妥当かつ実現可能な方策になり得ない。そうした条件下で、皇位継承資格の「男系男子」限定という今の制度を維持すれば、どうなるか。
少し前に、高森稽古照今塾の優秀な塾生の1人が、「男系男子」限定をこのまま維持した場合の皇位継承の「期待値」を計算してくれた。
差し当たり、悠仁親王殿下のご結婚を前提にする(今の状態のままなら、残念ながらご結婚そのもののハードルも決して低くないのだが)と、以下のような数字になる。少し甘く、将来どの世代も必ず結婚されて、代々“お2方”のお子様に恵まれるという、いささか楽観的な仮定でも、「継承可能性」の数値は以下の通り。
2代目→75%。
3代目→56%。
4代目→42%。
5代目→32%。
かなり厳しい数字だ。お生まれになるお子様が“お1方”だと、次のようになる。
2代目→50%。
3代目→25%。
4代目→13%。
5代目→6%。
早々と、2代目から危険水域に入ってしまう。「次の世代の“男系男子”がお1方だけ!」という皇室の苦境は、もはや目先だけの「皇族数の確保」策でお茶を濁して、やり過ごせる局面では“ない”ということだ。
元々、正妻以外の女性(側室)から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫による皇位継承という選択肢が除外された時点で、持続可能性に無理のあることが分かり切っている、皇位継承資格の「男系男子」限定というミスマッチな制度を見直さなければ、皇位の継承は行き詰まる他ない。
それを怠ると、悠仁殿下のご結婚相手が必ず“健康な男子をお1方以上生む”こと以外に、皇室存続の可能性は望めなくなる(もし幸いそれが叶っても、上記の通り薄氷を踏むような危うさから逃れられないが)。そんな想像を絶する重圧下では、畏れ多いが悠仁殿下のご結婚自体が至難になりかねない。
一方、最高法規である日本国憲法が「世襲=天皇の血統〔皇統〕による継承」として公認している女子・女系(内閣法制局・執務資料『憲法関係答弁例集(2)』参照)の皇位継承も可能にした場合は、どうか。
そのケースでは女性天皇・女性宮家も可能となるので、先ずスタート時点での人数から違ってくる可能性を、想定できる。現在、悠仁殿下と同じ世代にお2方の内親王がおられるので、一先ずお3方(内廷プラス2宮家。その場合、内廷を担われるのは“直系優先”原則に照らして、
敬宮〔愛子内親王〕殿下になろう)として計算すると、それぞれお生まれになるお子様が“お1方だけ”でさえ(男女共に継承資格があるので)、「期待値」計算の結果は以下の通り。
2代目→100%。
3代目→100%。
4代目→100%。
5代目→100%。
まさに安泰。
スタート時の数が同じなら、75%の確率でしかお1方のお子様が授からないという、“より低め”の仮定を設けても次のようになる。
2代目→100%。
3代目→100%。
4代目→100%。
5代目→95%。
日本人は皇室の存続を望むのか、それとも望まないのか。もし存続を望むのであれば、採るべき方途は1つしかない。