「皇位の安定継承」を先送りして「皇族数の確保」に論点をすり替えた政府の検討結果。
そこでは、未婚の女性皇族(内親王・女王)が婚姻後も皇族の身分を保持される一方、「配偶者と子は皇族という特別の身分を持たず、一般国民としての権利・義務を保持し続ける」(報告書10ページ)というプランが示されている。
それがいかに無理筋であるかは既に指摘して来た。
又、憲法が禁じる「門地による差別」に当たる旧宮家系子孫が養子縁組によって皇族の身分を取得するプランでは、「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たない」一方、縁組“後”に婚姻された配偶者とお子様については、何の言及もない(12ページ)。
これについて、報告書を最終的に取りまとめた昨年12月22日の会議当日の記者への事前ブリーフでは、「養子の子孫については議論していない」と説明されていた。
全体会議での政府側の“はぐらかし”
しかし、そこが“空欄”のままでは、制度設計として余りにも無責任だ。
去る1月18日の国会全体会議でも、立憲民主党の野田佳彦「安定的な皇位継承に関する検討委員会」委員長がこの点を質問されている。
「縁組後に結婚された場合、お相手は皇族の身分になるのか、お子様が生まれた場合、皇族の身分で、男子ならば皇位継承資格を持つのかどうか。これは報告書には言及がございませんが、大事なことだと思いますから、その点について御説明をいただければと思います」と。
ところが、説明に当たった内閣官房皇室典範改正準備室の大西証史室長は、次のように回答を全くはぐらかした。
「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たないとしておりますけれども、その理由は何か…喫緊の課題として…皇族数を確保する観点から…皇位継承資格を持たないとすることがスムーズな合意形成につながるのではないか」
質問されていない別のことを説明しただけ。
そこで野田委員長は、同じ質問を繰り返して「そこまでちゃんと考えているのか考えていないのか」と畳み掛けられた。
これへの大西室長の回答は…
「ありがとうございます。会議におきましては、そういうことでございます。…なお、現行の皇室典範では、皇族の子、皇族の夫婦から生まれた子は皇族となるということになってはございます」というもの。
トリックの可能性
まさに無回答。
「(養子が縁組後に婚姻した配偶者とその子の位置付けを)考えているのか考えていないのか」と迫られたのに対し、「そういうことでございます」との答え(どういうこと?)。その上で、誰でも知っている「現行の皇室典範」でのルールを補足した。
国民の代表機関である国会を構成する政党の代表者への答え方として、不誠実この上ない異常な対応と言わざるを得ない。
よほど無能か不真面目か、そうでなければ、何か都合の悪い事情を隠しているのではないか、と勘繰らざるを得ない。
そこで1つ思い付いたのが、ある種の“トリック”が潜んでいるのではないかという可能性だ。
と言うのは、養子で「男子」なのに皇位継承資格を持たないという“特殊”な扱いながら、結果的に「皇族男子」という括りに含まれるならば、「現行の皇室典範」のルールで、その配偶者は皇族とされる(15条)。そうすると、養子とその配偶者の子は「皇族の夫婦の子」に該当するから、「皇族とされる」。
そうであれば、「男子」なら当たり前に皇位継承資格を持つという帰結になる。
ことさら「養子の子孫については議論」せず、報告書にも言及が無いのは、現行の制度の“まま”で対応できるから―との説明が一応は成り立ち得る。
隠したい理由
このように考えると、“空欄”に見えたのは実は空欄ではなく、そのように“見せ掛けて”いたに過ぎず、実はもう「回答」が埋まっているのではないか。
しかし、その回答を制度化する“前に”見られてしまうと、女性皇族の場合は(生まれられた時から「皇族」なのに、ただ“女性だから”という理由だけで)配偶者もお子様も“国民のまま”とされるのに対し、国民男性が養子になると(養子縁組の前は「国民」だったのに、“男性だから”)配偶者もお子様も皇族とされ、お子様が男子なら皇位継承資格まで持つという、令和の制度とは思えない旧時代的な「男尊女卑」ぶりが丸わかりになってしまう。
そうすると国民の違和感や反発を招いて、「スムーズな合意形成」に支障が生じかねない。
そのような判断から、現在の典範では否定されている「養子」による皇籍取得で、本人は皇位継承資格を持たないという、他の「皇族男子」とは“全く異なる”位置付けなのに、その配偶者やお子様の扱いについて丁寧に説明すべきことを承知の上で、報告書では敢えて言及しなかった。
一番隠したかったその点を、野田氏からストレートに追及された為、真正面から答えるどころか、取り乱したような訳の分からない答え方になってしまったのではないか。
内閣官房の官僚が無能でも不真面目でもないとすれば、そのように見るしかないように思える。これは勿論、今の時点での私の憶測に過ぎない。
だが、上記のようなロジックを政府側が潜ませている可能性は否定できないだろう。
これから始まる国会での議論・検討において、速やかに政府側から“明確”な回答を引き出して欲しい論点の1つだ。メディア関係者にも注意を喚起したい。