天皇・皇后両陛下をめぐる逸話は今回で一区切り(『文藝春秋』令和元年11月号、証言者の肩書きは当時)。
「ボーイスカウト日本連盟の理事長になった2010年(平成22年)から、毎年1月3日に新年のご挨拶にうかがい、赤坂御所の庭の見える応接室で、食事や日本酒をご一緒しています。…
毎年、赤坂御所にうかがう前、朝の9時ごろに、秋篠宮邸にもお邪魔しました。秋篠宮さまも皇族としてご教育を受けられた方です。しかし、ご関心が薄い話題になると、ご自分は前に出ずに、紀子さまに任せられることがあります。一方、陛下は身じろぎをせずに、こちらの目をまっすぐに見て視線をそらすことがありません。それでいて、ゆったりとお酒をお飲みになり会話をなさる」(元早稲田大学総長の奥島孝康氏)
「昭和58年から宮内庁御用掛(ごようがかり)を務め、皇后様に初めてお会いしたのは平成5年のご結婚の少し前。『お妃教育』として、1週間ほど集中的に和歌の講義を受けていただき、ご結婚後も月1度1時間ほどご進講を申し上げていました。歌は初めてなので、とおっしゃっていましたがとても御熱心で時折鋭い質問を挟みながら私の話をお聞き下さいました。
最初は別々にご進講をとおっしゃっていた天皇陛下も、皇后様とご一緒においでになることが多くなりました。東宮御所の階段をお二人が手を取り合って、若々しい軽やかさで下りてこられたこともあります。…皇后様にとって初めての歌会始のお題は『波』。お詠みになったのは、新婚わずか2カ月後に陛下と訪問された滋賀県の思い出でした。
君と見る波しづかなる琵琶の湖(うみ)さやけき月は水面(みのも)押し照る
ほんの初期の歌でありながら、非常に完成度が高い。
思わずご本人に『この下(しも)の句(最後の七・七の部分)はどなたかにご相談されましたか』とお尋ねすると、『いいえ、どなたにも』。頭の良さや感性の鋭さが基礎にあるのはもちろんですが、短期間でこれほどの歌を詠めるまでになられるほどの『努力のお方』なのだという印象が強く残りました」(元宮内庁御用掛の岡野弘彦氏)
謹みて令和の御代(みよ)の弥栄(いやさか)を祈り上げる。