先日、さる方から皇位の安定継承を巡って質問を戴いた。
その方は、側室不在で非嫡出・非嫡系による皇位の継承可能性が排除された条件下では、いつまでも男系限定を維持できないことは理解されており、いずれ女系継承を容認しなければならないことも分かっておられる。しかし、可能な限り男系維持の為の努力をすべきだという立場だ。
私が先方からの質問を受けて、その質問内容に限定した範囲で回答するという形で、長文によるやり取りを何回か繰り返した。その内容を圧縮・再整理して紹介すれば以下の通り。
質問=旧宮家系国民男性は誰も皇籍取得する意思を持っていないという意見がある。しかし、対象者全員にその意思が全くないと断言できるのか。できるなら、その確かな根拠を教えて欲しい。もしその根拠が完璧なものでなければ、たとえ僅かな可能性でも意思を持っている当事者が いるかも知れないので、旧宮家系男性の養子縁組プランという選択肢も全面的には除外できないのではないか。
回答=当事者の意思以前に、対象者は全て(憲法第1章が優先的に適用される皇室の方々ではなく)憲法第3章が全面的に適用される国民なので、養子縁組プランは特定の血筋・家柄の国民“だけ”が特権的に養子縁組によって皇籍を取得できる制度になり、憲法が禁じた「門地による差別」(第14条)に該当するので認められない。
質問=しかし、皇后陛下をはじめ、上皇后陛下や各妃殿下方も皆様、元は国民だった方々ばかりだ。それでも皇族になられて、違憲という問題も生じていない。同じようなやり方はできないのか。
回答=皇后陛下などご婚姻によって皇族になられる場合、対象者に特定の血統・家柄という限定がないので「門地による差別」に当たらず、憲法違反にはならない。しかし、養子縁組プランの場合は、対象者を旧宮家系男性あるいは「皇統に属する男系の男子」に限定しており、この限定がある以上、憲法違反を免れない(男性に限定すれば“性別による差別”にも当たる。同じく憲法第14条)。
質問=ならば養子縁組プランでも、制度上は全ての制限を外して国民は誰でも(血統も性別も関係なく)養子縁組で皇族になれる仕組みを作り、実際の運用において旧宮家系男性に限定すれば、憲法違反を免れることができるのではないか。
回答=そのような欺瞞的な制度運用を図った場合、違憲逃れの見え透いた隠れ簑であることが たちどころに見破られ、皇室への信頼感、素直な敬愛の気持ちが決定的に損なわれることは、 火を見るよりも明らだ。その上、制度の仕組み通りに運用される可能性を一切排除することは難しく、皇室の尊厳と存続自体の深刻な危機を招きかねない。
――以上のやり取りの末、先方はご自身のプランに「実に様々な問題がありそう」と率直に認められ、「さらに深く考えて参りたい」と再考をしっかり約束してくれた。いささか時間を取られたが、全く時間の空費でもなかっただろう…と信じたい。国民が“誰でも”養子縁組で皇族になれるプランを持ち出された時には、さすがに少し呆れたが。
皇室の品格、尊厳、聖域性を本気で重んじようとするのか。目先だけの誤魔化しに逃げ込まず、根本的な解決策を真剣に求めようとするのか。
そこが問われる。