「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」第5条に以下の規定がある。
「第2条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」
「第2条の規定による皇位の継承」とは、具体的には上皇陛下のご退位に伴う今上(きんじょう)陛下のご即位を指す。だから当然、「(それに)伴い皇嗣となった皇族」とは秋篠宮殿下のことに他ならない。
それが「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」ということは、“傍系の皇嗣”でいらっしゃる秋篠宮殿下も全て「皇太子」と同じ位置付けになることを意味するのか。
この点について、誤解又は混乱が見られるようだ。
しかし勿論、“全く同じ位置付け”になる訳ではない。
そもそも、「皇室典範に定める事項」とは何か。そこを明確化しないと、この規定の意味が理解できない。皇室典範で皇太子・皇太孫(直系の皇嗣)と傍系の皇嗣が同じように扱われている部分は勿論、問題にならない。その両者の間に差別を設けている「事項」にこそ、目を向ける必要がある。
それは何か。
具体的には次の規定だ。皇室典範第11条第2項。
「親王(皇太子及び皇太孫を除く。)内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる」
これは、直系の皇嗣(皇太子・皇太孫)だけを除き、親王・内親王・王・女王に対して(と言うことは“傍系の皇嗣”も対象から除外されない)、「やむを得ない特別の事由があるときは」ご本人の意思に関わりなく皇室会議の議決だけで「皇族の身分を離れる」という措置を執り得る-というルールを定めたものだ。
ちなみに「やむを得ない特別の事由」とは、「懲戒に値する行為があつた場合その他皇族として
その地位を保持することを不適当とする事情」および「皇族数を調整する必要を生じた場合」(法制局「皇室典範案に関する想定問答」)とされている。
それはともかく皇室典範の規定では、傍系の皇嗣もご本人の意思と無関係に、皇室会議の議決で一方的に皇籍離脱を余儀なくされ得るルールになっている。
秋篠宮殿下は傍系の皇嗣でいらっしゃるので、さすがにこの点への手当てが欠かせないと判断されて、特例法に上記の条文が入ることになったのだろう(この他に、第17条第1項にも直系と傍系の皇嗣の扱いに名目的な差別を設けているが、特に手当ては必要としない)。
つまり、傍系の皇嗣でいらっしゃる秋篠宮殿下も「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」というのは、皇室典範第11条第2項の適用について、「皇太子」と同様に“例外”とすることを意味するにとどまる。
たまたまその時の巡り合わせで皇位継承順位が第1位とされているに過ぎない、という“非確定的”なお立場であること(それが傍系の皇嗣の本質)がこの規定によって変わることはない。
今の皇室典範のまま一字一句変更がなくても、理論的な想定として天皇・皇后両陛下に今後もし男子がお生まれになったら、その瞬間に継承順位は変更されるし、更に国会が皇室典範の改正を行って第1条の「男子」の語が削除されたら、同じく直ちに変更となる。
そのような変更は、次の天皇であることが確定しているお立場の「皇太子」であれば、理論的な仮定としてもあり得ないことだ(様々な皇室典範の改正を想定できるとしても、皇位継承の直系主義をねじ曲げる改正はにわかに考えがたい)。