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執筆者の写真高森明勅

憲法第1章が天皇だけでなく皇室全体に及ぶ理由とは?


憲法第1章が天皇だけでなく皇室全体に及ぶ理由とは?


憲法学上、天皇・皇族と国民の関係については、主に3つの学説がある。

このことは以前にも紹介した(昨年12月20日公開ブログ「皇室の人権を巡る憲法学における通説の変遷とその問題点」など)。


A説=天皇も皇族も国民に含まれるとする学説(宮沢俊義氏・芦部信喜氏ら)

B説=天皇は国民に入らない一方、皇族は国民に含まれるとする学説(伊藤正己氏ら)

C説=天皇も皇族も国民とは区別された特別な存在とする学説(佐藤幸治氏・長谷部恭男氏ら)


古くはA説が通説とされていた。


だが、近年ではC説にその地位を譲っているようだ(奥平康弘氏・横田耕一氏・木村草太氏ら)。


私もC説を概ね妥当と考える(但し長谷部氏の「身分社会の飛び地」説の過剰な実体化には警戒を要する)。それを私なりに言い換えると、天皇・皇族は憲法第1章(天皇)の“優先的”な適用を受け、国民は同第3章(国民の権利及び義務)の“全面的”な適用を受けるという形で、両者の憲法上の位置付けは明確に異なる、という整理になる。


ところで、B説にはしなくも露呈しているように、第1章と天皇以外の皇族方との関係をうまく理解できていない傾向があるのではないだろうか。


そこで念の為に、第1章が天皇だけでなく、皇室の方々“全て”に関わる規定であるというシンプルな事実について、改めて指摘しておく。


①まず憲法の「世襲」規定(第2条)のもと、今の皇室典範のルールでは男性皇族であれば皆様、皇位継承資格を持たれている。ということは、どなたも天皇として即位される可能性が

ゼロでないことを意味する。つまり、第1章の規定を丸ごとお引き受けになられる可能性がある以上、天皇に対する憲法の規範的な要請(「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」たるに

相応しく振る舞われるべし〔第1条〕、「国政に関する権能を有しない」〔第4条第1項〕等)は、その可能性の度合いによって一定のグラデーションを含みながらも、それらの方々にもそのまま当てはまることになる。



②又、第4条第2項には以下の規定がある。「天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる」ここに言う「法律」として制定されたのが「国事行為の臨時代行に関する法律」(昭和39年)だ。それによれば、「摂政」に就任する順位に当たる皇族に

“委任”するルールになっている(同法律第2条)。


つまり、次の③で取り上げる摂政への就任資格を持つ全ての皇族は天皇の“国事行為の臨時代行”を担う可能性があるので、やはりグラデーションを含みつつも、先の規範の適用を受けられる。



③更に、第5条には以下の規定がある。

「皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。…」その摂政への就任資格は、親王妃・王妃を除く全ての成年皇族に認められている(皇室典範第17条)。


つまり、天皇のお務めを全面的に肩代わりする可能性は、今のルールでも男性だけでなく、

女性の皇后や内親王・女王方にもあるのだ。よって、それらの方々も天皇の代行者になる

可能性を持つ以上、規範の対象に該当する。



④その上、摂政への就任資格を持たれない親王妃・王妃や未成年の皇族方の場合も、親王・王の配偶者やお子様など、極めて近いご近親でいらっしゃる以上、上記の規範は他の皇族に準じる形で、同じく当てはまる。



⑤第8条(皇室の財産授受の限定)は「皇室」そのものを対象とした規定なので、皇室の全ての方々に適用されることは言うまでもない。


つまり、皇室の方々(=皇統譜に登録)はお一方の例外もなく皆様、憲法第1章の優先的な適用を受けられるということになる。皇室の皆様が、第3章が国民に保障する自由や権利を全面的又は大幅に(一定のグラデーションを含みながら)制約される根拠は、この点にある。 


天皇・皇族は憲法上、国民(=戸籍に登録)とは区別された特別な存在ということだ(A説だけでなくB説も成り立たないのは自明だろう)。


ちなみに、第3章に規定する「門地による差別」の禁止(第14条第1項)が皇室の方々に適用されないのは、改めて説明するまでもなく、第1章にある皇位の「世襲」を定めた明文規定(第2条)が“優先的”に適用されるからだ。


先頃、政府が国会に検討を委ねた有識者会議報告書にある、内親王・女王の配偶者やそのお子様を第3章の全面的な適用を受ける国民とする制度設計が、いかに荒唐無稽であるか。上記の事実を知っていればたやすく理解できるはずだ(今のルールのままでも、内親王・女王は「摂政」に就任され、あるいは国事行為の臨時代行に当たられる可能性さえあるのだ!)。


又、第3章の“全面的”な適用を受ける国民の中(!)の皇統に属する男系の男子(例えばいわゆる旧宮家系男性)“だけ”を特権的に婚姻を介することなく皇籍取得できるようにする制度は(第1章の優先適用を“受けない”立場なので)、先に取り上げた「門地による差別」の禁止にドンピシャ該当し、全く認められない、ということも直ちに納得できるだろう。

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