このところ、皇位の安定継承を巡る議論に関わって、天照大神が皇室の祖先神であるという揺るがぬ事実を、「保守」系と称する人が必死になって疑おうとする、という奇妙な光景を時折、見かけることがある(だが一方、よほどのオッチョコチョイでなければ、まさかスサノオのミコトやイザナキ・イザナミ2神を皇祖神とも言えず、口をモゴモゴさせている状態)。
以前にも取り上げたが、もう少しだけ触れておこう。
もし天照大神が皇室の祖先神でなければ…
皇室祭祀の聖域である宮中三殿の中央の「賢所」に何故、天照大神1柱のみが特別の地位で祀られているのか?
天照大神を祀る伊勢の神宮の「祭主」を何故、天皇陛下の妹でいらっしゃる黒田清子(さやこ)様が務めておられるのか?
皇位の徴(しるし)として神聖この上ない「三種の神器」の根源は、いかなる神に由来するのか?
…等々。疑問百出して際限がないだろう。
ここでは、政府見解においても天照大神こそが皇室の祖先神とされている事実を紹介しておく。
この方面に関心がある人には珍しい知識でもないが、念のため。
「伊勢の神宮に奉祀されている神鏡は皇祖が皇孫にお授けになった八タ(尺+只)鏡〔やたのかがみ〕であって…皇室経済法第7条にいう『皇位とともに伝わるべき由緒ある物』として、皇居内に奉安されている形代〔かたしろ〕の宝鏡とともにその御本体である伊勢の神鏡も皇位とともに伝わるものと解すべきである」(昭和35年10月22日、池田勇人内閣総理大臣による「衆議院議員濱地文平君提出伊勢の神宮に奉祀されている御鏡の取扱いに関する質問に対する答弁書」)
ここに「皇祖から皇孫に」とあるのは、明らかに『古事記』・『日本書紀』の神話を踏まえた表現で、“皇祖”が天照大神を指すことは、神宮のご神体の神鏡を巡る文脈からも、疑う余地がない。
すなわち、「皇祖(皇室の祖先神)」が天照大神であることは、政府見解としても確定していることが分かる。
なお、よくできた答弁書ながら、文中に「奉安」とあるのは、「神鏡」の「奉祀」との区別を意識しているのだろうが、それは尊いものを“安置する”場合(つまり、ただ置くだけ)に使う語であって、「宝鏡」も賢所で丁重な祭祀の対象とされている以上、適切でなく、やはり「奉祀」とすべきだろう。宮中における剣璽(けんじ、宝剣=草薙剣のご分身と神璽=八坂瓊曲玉のご本体)の扱いこそは「奉安」の表現に相応しい。
プレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」は3月1日に公開されました。
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