「元皇族」という言葉がある。かつて皇族だった方が、皇族の身分を離れられた場合、「元皇族」と申し上げる。
一定期間、皇統譜に登録された後に、そこから戸籍などに移られるというケースだ(稀に外国籍を取得された事例もあった)。「旧皇族」という語も、元来は「元皇族」と同じ意味であり、そのように使われていた。
その場合、元皇族、旧皇族が皇族の身分を離れられた後に生まれた子孫は、当然ながら元皇族、旧皇族には含まれない。ところが呆れたことに、かつて1分、1秒も皇族の身分だった事実がなく、勿論、皇統譜に登録されていないばかりか、既に親の代から(!)戸籍に登録された一般国民だった人物までも、公然と「旧皇族」を名乗るケースが現れている。
皇室に対して、これほど非礼・不敬な振る舞いはないと思われる。だが、意外とそのまま見逃してしまう“愛国者(?)”も、いるらしい。どうやら鉄面皮にも、本人が勝手に、“自分も”含まれるように「旧皇族」の概念を拡張しているようだ。
以下の通り。
「占領軍の圧力により昭和22年に皇籍離脱した旧11宮家の一族を『旧皇族』ということにする」(『正論』平成24年4月号、竹田恒泰氏執筆)
「旧11宮家の“一族”」は全て「旧皇族」だと。これはほとんど詐欺に近い用法ではあるまいか。
「一族」とは、一般に「同じ血筋を受けた者。本家・分家を含めた親族全体」(『新明解国語辞典 第8版』)を意味する。そうすると、親族(=血縁及び姻戚関係にある人々)を広く
含むことになる。
これだと、元皇族(あるいは本来の意味の旧皇族)の孫(!)の嫁(!!)なども「一族」として、「旧皇族」に当てはまることになろう(少なくともこの用法では排除する根拠がない)。
デタラメにも程がある。
しかしいつの間にか、このような用法がある程度、広まっているようだ。それが旧宮家プランを巡る議論にも奇妙な歪みをもたらしているように見える(メディアでも「皇籍“復帰”」といった間違った言葉〔正しくは“取得”〕がいつまでも訂正されない等)。
今のところ、さすがに「元皇族」という言葉は避けているようだが、「旧皇族」という語を(敢えて!)いい加減に使っている人物や文章を見掛けたら、要注意。
元皇族(旧皇族)は、婚姻によって国民の仲間入りをされた元は内親王・女王だった方々か、そうでなければ旧宮家系で70歳代後半以上に限られる(ちなみに元JOC会長の竹田恒和氏〔恒泰氏の父親〕は旧宮家の皇籍離脱から約2週間後に国民として生まれている)。それ以外の人物が自ら旧皇族を名乗ったり、そのように呼ばれたりしていたら、もうそれだけで、信用してはいけない。
「(昭和22年の皇籍離脱)以降に元宮家に生まれた者は『元皇族』とはいえない。
もしそう自称すれば詐称である。…
皇籍離脱時には幼かった元皇族で、普通のサラリーマンとして民間企業などで働いた人も何人もいる。その場合、元皇族という肩書がどのような意味をもったかは分からないが、それを鼻にかけて問題を起こした例はなかったようだ。ついでにいえば、かつて皇族だった人、つまり『元皇族』の血を引いている若者が、『元皇族』として書物を出したり、雑誌やテレビなどにしきりに登場したりもしていたが、そのようなことも時とともにありえなくなるにちがいない」(浅見雅男氏・岩井克己氏『皇室150年史』)