迂闊にも見逃していたが、高円宮妃久子殿下は去る2月8日に、東京アメリカンクラブで英語での講演をされ、講演後の質疑応答の中で“女性天皇”について興味深い発言をされていた。
最初、女性天皇が即位できるようになるのはいつ頃になると思いますか、という直球の質問を受けられた時は、誰かが私に代わって答えてほしい(=私が知りたいくらいです)という風に、ユーモアを交えて正面からの回答を避けられた。
これは皇族としてのお立場上、やむを得ない。
何故か。
女性天皇が可能になる前提は皇室典範の改正であり、憲法上、皇室典範の改正はもっぱら国会案件、つまり国政事項とされており(第2条)、一方、同じく憲法で天皇は国政権能を否定されていて(第4条)、皇族も天皇に準じるお立場なので、同様に国政に関わるご発言は認められないからだ(しかし皇室典範は、その名の通りもっぱら皇室だけを対象とした法律なのに、当事者であられる皇室の方々が皇室典範の改正について公式には一切タッチできないのは、普通に考えて理不尽と言うしかあるまい)。
しかし、次の質問に移った後、妃殿下はご自分から再び女性天皇の話題を持ち出され、“非常に興味深い”と強調された。
「(女性天皇とは)単なる社会的、政治的な事柄ではなく、学術的に興味深い点をたくさん含んでおり、どちらの方向にも進む可能性がある」
上記の厳しい制約の中で、女性天皇というテーマへのご自身の強いご関心を、お立場に抵触しないギリギリのところで示されたご発言と受け止めることができる。現在の皇室典範のルールでは、女性天皇は一切、排除されている。にも拘らず、「学術的」と断られながら「“どちらの方向にも”…」とおっしゃっている点は、見逃せない。
今の「男系男子」限定ルールの“他に”、女性天皇を認める選択肢も否定されず、むしろそれを可能にする方向に進むこともあり得る、という認識を示しておられるからだ。
もしも妃殿下が女性天皇について、全く否定的なお考えをお持ちならば、次の質問に移ってから再びこの話題をわざわざ持ち出されることは、考えにくい。
very very interestingという言い方も決してなさらなかったはずだ。
根拠のない憶測は厳に慎むべきだが、皇族として窮屈な制約がある中でも、敢えて先に掲げたような発言をされていることから、妃殿下のご本心をおよそ拝察できるのではあるまいか。
更に、妃殿下は皇室の在り方について、以下のように述べておられた。
「皇室の在り方に関しては、夫(故・高円宮憲仁親王)が言っていたことをお話しすることが、間違いないと思います。私たち皇族は、国民からこれをしてほしいと望まれていることをするのです。
もしも国民が私たちを必要としていないと感じるのでしたら、私たちは必要ないのでしょう。
私たちは変わらず、希望を持って国民に寄り添い続け、国民の為に祈り続けます。今上陛下も同様になさります。しかし、私たちが今のやり方のままでよいのか、今後はどうあるべきかは本当に国民次第(up to the people→国民が決めること)です」
国民は皇室の存続を望むのか、どうか。
存続を望むとすれば、一体どのような皇室を望むのか。天皇や皇族方のご人格も人権も可能な限り尊重される皇室なのか、それとも逆に、それらが平然とないがしろにされ、否定される皇室なのか(後者の場合は勿論、皇室の末長い存続は決して望めないだろう)。皇位の安定継承を目指すルールの見直しを含めて、厳しく国民の責任が問われる。