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執筆者の写真高森明勅

内親王方のご結婚相手を無理やり旧宮家系国民男性に限定?


内親王方のご結婚相手を無理やり旧宮家系国民男性に限定?

不思議な文章を見かけた。


「内親王殿下(具体的には愛子殿下と佳子殿下)が皇統に属する男系男子(具体的には、いわゆる旧皇族の男系男子孫)と結婚された場合、配偶者は皇族であり、2人の子も皇族となれる。皇族の人生を政府が強制できないが、内親王殿下にそのような決断をしていただいた場合、何が問題なのか。無理やり、『皇族にも人権がある。もちろん婚姻の自由もだ』『だから民間人と結婚して、その配偶者を皇族とせよ』などと声高に主張する必要はない」(カッコ内も原文のママ。

『SPA!』2月13日·20日合併号)


例によって、全てのセンテンスに漏れなく突っ込み所が満載という、サービス精神に溢れた文章だ。


先ず、前提となる「…結婚された場合」という仮定に、僅かでもリアリティがあるのか。

少なくとも、そのリアリティを支える根拠が一切示されていない。

これだけで先に引用した文章は全て土崩瓦解する。しかし、せっかくサービス精神に溢れた文章なので、もう少し丁寧に付き合おう。内親王と旧宮家系国民男性が結婚されるという何の根拠もない仮定については、敬宮殿下のお相手候補として旧宮家系で唯一候補になり得そうな賀陽正憲氏の子息説が昨年の今頃、一部の週刊誌で随分取り沙汰されていた。だがその後、西村泰彦宮内庁長官が念の為に部下に命じて調査させ、ハッキリ「嘘」と判明した(『文藝春秋』令和5年9月号)。


私も以前、プレジデントオンラインの連載「高森明勅の皇室ウォッチ」(令和5年4月6日公開)でやや立ち入って検証したので、興味のある方は覗いて欲しい。


その上で指摘すれば、旧宮家系男性が内親王と結婚したら、それまで国民だったのに「皇族」の身分になれる、などというルールはどこにもない。


今の皇室典範の規定では、内親王が旧宮家系男性と結婚された場合、皇籍を離れて国民の仲間入りをされる(第12条)。両者の間にお子様が生まれても、国民同士の間に生まれた子供なので当然、国民だ。有識者会議報告書の提案でも、内親王·女王の配偶者及びお子様は国民のままとされている(10ページ)。


「配偶者は皇族であり、2人の子も皇族となれる」というのは、何か白昼夢でも見たのだろうか。


その次の「皇族の人生を政府が強制できない」という表現も些か舌足らずだろう。勿論、内閣の命令=政令で皇室の方々の人生をダイレクトに左右することはできない。しかし、内閣提出の法案=いわゆる閣法によって皇室典範の改正なり特例法の制定なりが行われれば、憲法第3章が全面的に適用され、自由と権利が憲法そのものによって保障されている国民の場合と違って、憲法第1章が優先的に適用される皇室の皆様の人生が、それによって決定的に拘束されることは

あり得る。だからこそ、国民は皇室を巡って政府が理不尽な法律を作らないように、厳しく監視する必要がある。


それに続く「内親王殿下にそのような決断をしていただいた場合、何が問題なのか」というのも奇妙な文章だ。内親王殿下が自発的にそのような選択をなさることを「問題」視する主張など、どこにも存在しない。誰に突っかかっているのか。やはり白昼夢でも見ているのだろうか。


但し、「“決断”をしていただいた場合」という言い回しに、社会的な圧力などで(“三顧の礼”などと称して)「無理やり」そのような「決断」を迫られるという状況を想定しているなら、それは言う迄もなく人道上の大問題だ。


上皇陛下も天皇陛下も、ご自身が選ばれたお相手と結婚され、幸せなご家庭を築かれた。

内親王·女王方にも最低限、同じような人生の選択肢が認められるべきだ、というだけのごく当たり前の話だ。


ところで「だから民間人と結婚…」というのも不可解な文章だ。

現在、内親王·女王方のご結婚相手になり得る男性は、(旧宮家系男性も含めて)国民=「民間人」以外に実在しない。だから「民間人と結婚」は「主張」ではなく、ご結婚される場合は“事実として”それ以外に選択肢がない。又もや白昼夢だろうか。


更に、内親王·女王の配偶者が国民のままという有識者会議報告書が提案している制度は、あり得ない。何故なら社会通念上、内親王·女王とその配偶者が一体と見られるのは避けにくいからだ。

国政権能が認められず「国民統合の象徴」であられる憲法上の天皇·皇室の位置付けと、国民に保障されている参政権をはじめとする権利や自由の中身を突き合わせると、女性皇族と国民男性が“1つの世帯”を営むという制度は、不整合この上ない。


よって、「配偶者を(男性皇族とのご結婚の場合と同じく)皇族にせよ」というのは必要最小限の要請に過ぎない。


いずれにしても、ご本人が望まれていないにも拘らず、外部から旧宮家系男性とのご結婚という「決断」を迫る非人道的な(!)動きが根絶しない限り、ご結婚の自由を「声高に主張する必要」はいつまでも消えない。

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