4月2日、宮内庁は敬宮殿下の日本赤十字社ご就職に際して宮内記者会の質問への文書回答を公表。そこには敬宮殿下ご自身の「皇室」観が率直に表明されている。以下の通り。
「私は、天皇皇后両陛下や上皇上皇后両陛下を始め、皇室の皆様が、国民に寄り添われながら御公務に取り組んでいらっしゃるお姿をこれまでおそばで拝見しながら、皇室の役目の基本は『国民と苦楽を共にしながら務めを果たす』ことであり、それはすなわち『困難な道を歩まれている方々に心を寄せる』ことでもあると認識するに至りました」と。
的確に天皇陛下が上皇陛下から受け継がれた天皇·皇室の「役目」の核心が示されている。しかも「困難な道を歩まれている方々に心を寄せる」という、更に踏み込んだ殿下が自ら掴み取られた“核心中の核心”というべきポイントも、表現されていた。
まだお若いご年齢で、ご自身の問題意識に即して、ここまで皇室が果たすべき役割の本質に迫っておられる事実に、驚く。まさに、天皇·皇后両陛下のもとにお生まれになり、天皇·皇后両陛下のもとで育って来られた直系の皇女、敬宮殿下ならではの深いご洞察と言うべきか。
ところで、敬宮殿下のご回答にある「国民と苦楽を共にしながら務めを果たす」というご表現は、上皇陛下が平成時代に天皇誕生日に際しての記者会見で述べておられたご発言を踏まえておられる。
それは以下の通り。
「私の皇室に対する考え方は、天皇及び皇族は、国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが、皇室の在り方として望ましいことであり、またこの在り方が皇室の伝統ではないかと考えているということです」(平成17年12月19日)
「国民と苦楽を共にする」「務めを果たす」という2点がピッタリ重なる。ここで注目すべきなのは、この時の上皇陛下のご発言がどのような文脈で発せられたものであったか、ということだ。
この年の天皇誕生日の少し前に、小泉純一郎内閣に設けられた有識者会議から報告書が提出され、安定的な皇位継承の為には「女性天皇·女系天皇」を認めることが欠かせないとの結論が示された。
それを受けて、宮内記者会が「(それが実現すれば)皇室の伝統の一大転換となります」と(勝手に)断定して、「皇室の伝統とその将来についてどのようにお考えになっているか」を尋ねた質問へのご回答だった。 上皇陛下は憲法上の制約により政治的な問題を慎重に避けられながら、「皇室の中で女性が果たしてきた役割については私は有形無形に大きなものがあったのではないかと思います」とされた上で、先のように述べられたのであった。
これは、「皇室の伝統」とは狭い“男系男子”継承などではなく、「国民と苦楽を共にする」という“在り方”に他ならない、というメッセージと受け止めることができる。
その上皇陛下のおことばを踏まえて、敬宮殿下はこの度のご回答の中で上記のようなご自身のお考えを示された。これは、上皇陛下がおっしゃった「皇室の伝統」をしっかりと受け継ぐご決意を、自ら示されたものと拝察すべきだろう。