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執筆者の写真高森明勅

憲法の世襲は男系を限定的に意味するという独自解釈への疑問


憲法の世襲は男系を限定的に意味するという独自解釈への疑問

拙稿が掲載された「歴史人」10月号が編集部から送られて来た。


「天皇と皇室の日本史」をテーマにした特集でなかなか充実している。


編集部がつけた拙稿のタイトルは「皇位継承の秘史 古代から江戸時代まで」。

別に「秘史」でもないと思うが、それは編集部権限なので言わないことにしよう。


又、京都産業大学准教授·久禮旦雄氏の記事「天皇と皇室の基礎知識Q&A」では参考文献として

拙著『ビジュアル版 私たちが知らなかった天皇と皇室』(SBビジュアル新書)を取り上げて戴いており、光栄だ。


特集の中に、憲法学者の百地章氏のインタビュー記事もある。

この記事で百地氏は以下の発言をされていた。


「憲法第2条の『皇位の世襲』は『男系』を意味しており『女系』は含まれておりません。

憲法で男系と定められている以上、皇位の安定的な継承は男系が前提と考えるべきなのです」と。しかし、この発言には根拠がない。


憲法第2条の「世襲」について、政府見解は以下の通り一貫していて、揺るぎがない。


「男系ノ男子ト云フコトハ第2条ニハ限定シテオリマセヌ」(昭和21年9月10日、貴族院·帝国憲法改正案特別委員会での金森徳次郎·国務大臣の答弁)


「必ず男系でなければならないということを、前の憲法と違いまして、いまの憲法はいっておるわけではございません」(昭和41年3月18日、衆院·内閣委員会、関道雄·内閣法制局第1部長の答弁)


「憲法においては、憲法第2条に規定する世襲は、天皇の血統につながる者のみが皇位を継承するということと解され、男系、女系、両方がこの憲法においては含まれるわけであります」

(平成18年1月27日、衆院·予算委員会、安倍晋三内閣官房長官の答弁)


「憲法第2条は、皇位が世襲であることのみを定め、それ以外の皇位継承に係ることについは、

全て法律たる皇室典範の定めるところによるとしている。同条の『皇位は、世襲のものであつて』とは、天皇の血統につながる者のみが皇位を継承することを意味し、皇位継承者の男系女系の別又は男性女性の別については、規定していないものと解される」(内閣法制局·執務資料『憲法関係答弁例集(2)』(平成29年刊)


百地氏のロジックをそのまま借用すれば、憲法の世襲が男系に限定して“いない”以上、安定的な皇位継承は男系·女系の双方を視野に入れなければならない、という結論になる。


同氏は「『立皇嗣の礼』が行われ、令和の天皇陛下が『次は秋篠宮さま』と公言されております」とも述べておられる。


しかし、これは明白な虚偽だ。

天皇陛下がおっしゃられた「おことば」は次の通り。


「本日ここに、立皇嗣宣明の儀を行い、皇室典範の定めるところにより文仁親王が皇嗣であることを、広く内外に宣明します」


次代の天皇として即位されることが確定しておられる皇太子と、その時点で皇位継承順位が第1位でいらっしゃるに過ぎない“傍系の”皇嗣の違いについて、気付いていないのか。それとも敢えて隠蔽しているのか。


同氏は又、「養子制度も…明治以前では普通行われていました」とされている。しかし、既に次の事実が指摘されている。


「臣下の子女が皇族の養子ないし猶子となった場合には、それに依って皇族に列することはなかった」(宮内庁書陵部編纂『皇室制度史料 皇族1』)。


更に、「女系天皇の誕生は新たな王朝が誕生することになり、つまり皇室の正統性が問われることになります」と述べておられた。


だが、憲法が女系も「天皇の血統」=皇統として認めているのだから、「新たな王朝が誕生することに」はならない。


むしろ逆に、既に国民の血筋となり、厳密には皇統から“外れた”旧宮家系子孫男性が養子縁組などで皇室に入り、その血筋から天皇に即位する事態となれば、それこそ「新たな(国民出身の!)

王朝が誕生することになり、皇室の正統性が問われる」だろう。

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