
今年の1月10日に皇居·宮殿「松の間」で行われた「講書始の儀」は、例年にも増して注目を集めた。
日本古代史と衣服史がご専門で大阪大学名誉教授の武田佐知子氏が、次代の天皇としての期待感が高まっている敬宮殿下もお出まし席で、歴史上の「女性天皇」についてご進講されたからだ。
その武田氏がご進講を務めた自らの体験をもとに、講書始の儀の準備の内幕について手記を発表されている(『文藝春秋』4月号)。
興味深い内容なので、その一部を紹介する。
「最初に連絡があったのは、2023年10月頃。文科省から『講義をしていただけないか』と打診がありました。以前、上皇上皇后両陛下と紀宮さまに、御所でご進講したことはありましたが、『なぜ私に?』と思いました。お引き受けすると、まずは自分が講義をする前年の講書始の儀に参加することになりました。恐らく本番の予行演習のためでしょう。
2024年1月、大阪大学の同僚だった名誉教授らが講義する様子の一部始終を、後ろに座って見ていました。実際にご進講する内容の原稿を提出したのは、一昨年の11月。
これを持って、ご進講の陪聴に臨んだわけですから、準備万端整っての参内です。どなたかに支障が出れば、即座に陪聴者が取って代わることが出来ます。よく工夫された仕組みだと思いました」
何とご進講用の原稿は、ご本人が実際に事に当たる“1年以上”も前に、全て完成していた。
その上で、前年の講書始の儀を陪聴する経験を経て、本番に臨むという用意周到さであった。
武田氏の文章にあるように、次年度のご進講者の陪聴が予め組み込まれていれば、万一、当年の
ご進講者に支障が生じても、直ちに代講が可能だ。
しかも、武田氏だけでなく、翌年にご進講が予定されている学者はみんな、陪聴しているはずだ。なので、敢えて極端な話をすれば、ご進講予定者の全員(!)がやむなく欠席になっても、いささかも滞ることなく行える、万全の手立てが講じられていることになる。
天皇陛下がお出ましになる宮中行事とは、これほどまでに入念かつ周到な準備がなされているものなのかと、改めて驚く。
勿論、ご進講に当たる権威ある学者達も、天皇陛下のお召しによるのでなければ、そこまでの準備にはとても応じ切れないだろう。
従って、かくも周到な万全の準備が可能な背景には、天皇陛下がお出ましになる宮中行事それ自体の権威性がある事実を、見逃すことはできない。
▼追記
①3月13日、「女性自身」編集部から、内親王·女王殿下方の配偶者やお子さまが国民とされる
プランの問題点について、取材を受けた。私のコメントは3月18日発売号に掲載。
▼記事URL
②3月28日にプレジデントオンライン
「高森明勅の皇室ウォッチ」が今月2回目の公開。